苦手なことは訳せない

翻訳するから意味が通じるのではなく、意味が通じるから翻訳できる。

日本人の国籍は「日本」ではない

当然ですが、どの国のパスポートにも、その所持人の国籍が書いてあります。日本の場合は

 

国籍/Nationality

JAPAN

 

と表記してあります。これは英語としては奇妙な書き方で、普通はJapaneseと形容詞で書くべきもののようです。英語が公用語かそれに近い国々のパスポートをみると、国籍はほとんどの場合、形容詞で表記されています。例を取ると

 

オーストラリア Australian

カナダ Canadian

アイルランド Irish

ケニア Kenyan

ニュージーランド New Zealand

南アフリカ South African

英国 British Citizen

米国 United States of America

 

ちなみにフランスのパスポートでも国籍はFrançaiseと形容詞で表記されています。

ニュージーランドは国籍を名詞で書いてあるように見えますが、そうではありません。New Zealandの形容詞は、New Zealandと国名をそのまま使います。例えば、「ニュージーランドラグビー」は、New Zealand rugbyとなるので、国籍のNew Zealandも形容詞と考えるのが自然です。米国の場合はというと、米国の形容詞には、United Statesもしくは省略してU.S.が使われます。ただ、さすがに国籍を「合衆国」と書くわけにはいかなかったのでしょう。Americanでは、文脈によっては南北アメリカ大陸の全ての国民をAmericanと言えるので、これも都合がよくありません。そこで国名を国籍として表記してあると考えられます。また、滅多にこのような使い方はしませんが、New Zealandという言葉が形容詞として使われるように、United States of Americaという句を形容詞として使っても間違いではありません。

 

日本の場合はJapaneseという形容詞を普通に使えるので、国籍をJapanと書くのは不自然です。本質を理解せず、ただ米国の真似をすればいいと思い、国名を国籍欄に書いているのでしょうか。

 

この不自然さは、英語もろくすっぽできないのに対米追随だけはしっかりやる日本の象徴だ、と悪口を言いたくもなりますが、おそらくはこれは単なる外務省の官僚主義の結果だと思います。外務省の若い職員は、これがおかしな国籍の書き方であることに気づいている筈です。しかし、組織の上のほうにいる老人は、自分の世代の間違いを認めたがらない。そのためいつまでもこの不自然な書き方が続く、ということではないでしょうか。